成長には痛みが伴う。ミスをミスのままにしてはいけない《河合CRC竜の眼》
価値ある勝利を飾ったアウェー山形戦
札幌は、上位チームとの4連戦を1勝2敗1分けで終えた。1―0で勝利した5月3日の山形戦は、風の影響もあり、多くの決定機をつくることはできなかった。それでも前線からの激しいプレスでボールを奪い、FWバカヨコが決勝ゴールをマーク。狙い通りの形ではなくても、ショートカウンターを仕掛け、少ないチャンスをものにした得点には高い価値があった。
また、家泉や西野を中心としたDF陣も最後の最後に体を張って、粘り強く守ることができていた。ゲームを通して悪い流れが続き、度重なるピンチを招きながらも勝ち点3を積み上げたことは非常に大きい。選手たちは確かな自信を手に入れ、ゴールデンウイークの最後にホームへ戻って、勝って終わろうという最高の流れをつくってくれた。
課題が浮き彫りになった磐田戦
だが、前節の磐田戦のパフォーマンスで状況は一変してしまった。この試合に限れば4失点全てに原因があり、それぞれの選手が抱える課題が浮き彫りになったと言える。
ゲームの行方を左右したのは、最初の失点だ。口酸っぱく「試合の入り方が大事」と言われていた中で、開始直後にDFラインの裏へロングパスを通された。DF髙尾はカバーがいるだろうと想定していたかもしれないが、もっと下がり気味のポジションを取っていなければいけない場面だった。背後に一発でロングボールを供給されるのは、開幕直後の4連敗と同じやられ方で、あまりにも軽率だったと言わざるを得ない。
磨くべき危機察知能力と予測力
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2失点目を招いたのは、DF中村の不用意なファウルだった。球際で強く寄せるのは良いことだが、磐田にはFKの名手であるMFジョルディ・クルークスがいる。セットプレーは彼の特長が最も出る場面。余計なファウルで絶好機を与えたことが、もったいなかった。ペナルティエリア周辺での不要なファウルは失点につながる可能性が高い。激しく当たるのは間違いではないが、常に状況を把握しておくことが大切だ。
3、4失点目は家泉の判断ミスが痛かった。ミドルシュートがポストに跳ね返った瞬間に、相手を見ているようでは遅すぎる。もっと早めに首を振り、周囲を観察しておけば、コーナーに逃げることも、タッチラインを割るクリアも可能だった。経験豊富なDFならば、ポストに当たることさえ予測して、次のプレーにつながるポジションを取ることができる。危機察知能力と予測力を磨くことで、今回の失敗を未来につなげてほしい。
必要なのは試合当日の自己分析
成長には痛みが伴う。そう信じて私は常々、ミスをミスのままにしてはいけないと伝えている。経験が浅い選手は、時に素晴らしいプレーをする一方で、好不調の波が激しい。安定したプレーを続けるためには、状態が悪い時に何をできるかが大切で、シンプルな割り切りも必要だ。試合当日のコンディションや状況を自己分析し「きょうはクリアに徹しよう、味方につなげることを最優先しよう」など、自分からアクションを起こすことでリズムが生まれる。
サッカーIQの高さを示した田中克
大敗の中で見出せた光明は、MF田中克の存在だろう。ボールを引き出して前に運び、テンポ良くボールをさばくことで攻撃の主役を担っていた。中でも注目したいのはロングボールの精度。長い距離のパスの正確性、キックの種類の豊富さが高いサッカーセンスを感じさせる。インスイングのクロスはもちろん、アウトに抜けるストレート気味のボールも実に見事だった。相手が嫌がる絶妙な場所にボールを置くことで、常に先手を取ることができる。反撃の2得点を呼んだ彼のサッカーIQの高さは、この試合でも際立っていた。
もう一度見たいと思ってもらえる試合を
チーム全体で手痛い敗戦を振り返った上で、あらためて〝走る、戦う〟という原点に立ち返ってもらいたい。技術で魅せるうまいプレーも良いが、死力を出し尽くすことがプロフェッショナルの最低限の務めだ。中村が長い距離をダッシュで追いかけ、ピンチの芽をつぶしたシーンには大きな拍手が送られた。戦う姿勢はサポーターの気持ちを揺さぶり、記憶にも強く残る。負けはしたけど、もう一度見たい。そう思ってもらえる試合をしよう。