ファイターズ
2025/12/31 14:00 NEW

《ハム番24時》12月31日 拡大版③


 個人的に印象に残っている試合がある。取材を進めていくうちに、仲間がいることの素晴らしさを知ったからかもしれない。シーズン終盤に差しかかった9月25日の西武戦(ベルーナドーム)。試合前の時点でソフトバンクの優勝マジックは「4」と、2位の日本ハムは負けられない試合が続いていた。

 その日の先発は、自身初の2桁勝利がかかった北山だった。西武のエース・今井を相手に二回、清宮幸の2ランで幸先良く先制。五回には水野にソロが飛び出し、七回表が終わって4-0とリードしていた。記者席で、このまま逃げ切るだろうと高をくくっていたら、その裏にまさかの展開が待っていた。

 六回まで無失点投球を続けていた右腕が、七回にヒットと味方の失策などで2点差に迫られ、イニング途中で降板。2番手の上原が、ネビンに痛恨の逆転3ランを浴びた。テレビのモニターにはベンチで頭を抱えてうなだれる北山が映し出され、こちらも、ぼう然自失。そのままチームは敗戦し、リーグ優勝は絶望的となった。試合後の囲み取材。いつも冷静に投球を分析しながら試合を振り返る背番号15が、言葉少なに球場を後にしたと同僚の記者から聞いた。

 先発投手は登板翌日、本拠地・エスコンに戻って練習をする。翌26日、ベルーナドームに北山の姿はなかったが、どうしても様子が気になった。練習後、同学年で公私ともに仲が良い清宮幸に「何か連絡したりしましたか」と尋ねてみた。「食事会場でたまたま一緒になって。そう簡単にはいかないねって。切り替えられていましたけど、教訓を得るしかないねって。それは経験じゃないですか。伸びる糧というか、そういうのがないと成長しない。僕とミヤさん(宮西)と3人だけだったので」。試合後、1人ではなかったと知って、勝手に安心した。

 後日、北山にも話を聞くことができた。思い出したくないことかもしれないが、すっきりした表情で振り返ってくれた。「清宮はホームラン打ってくれたので、勝ちにできなかったのは申し訳なかったですね」と言いつつ「清宮が励ましたというより、ミヤさんが励ましてくれました(笑)。(シーズン)最後の登板でダラダラCS(クライマックスシリーズ)に煮え切らずに行くよりは、うまく自分で消化して、CSでまた頑張った方がいいからとプラスなことをいろいろ言ってくれました」。前向きな言葉をかけてもらい、気持ちが楽になったという。

 チーム最年長40歳のレジェンド左腕の優しさが心に染みた。「ミヤさんが優しかったです。打たれた後もロッカーにいたので、仏のように優しかったので(笑)。ミヤさん史上、僕の中で一番、優しかったです」。ルーキーイヤーの2022年。ヤクルト戦で2試合連続サヨナラ被弾した時に「3日連続サヨナラホームラン打たれて新記録つくってこい」と励ましてくれたのも宮西だった。あれから3年たち「僕は厳しく育ててもらっているので、1年目のあの時は今ほどそんなに交流もなかった。ご飯とか連れて行ってもらったり、しゃべるようになって、この前の励ましは余計に優しく感じました」とグッと来るものがあったそうだ。

 数々の修羅場をくぐり抜けてきたベテランの言葉には説得力がある。シーズン中も、後輩投手が打たれた時は「あれはしゃーない」などと明るく励ましているという話を聞いた。競争が激しいプロの世界で、ライバルでもある仲間のことを思いやる。「少年ジャンプかよ」とツッコまれそうだが、少年漫画のような胸熱ストーリーが好きだ。

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