《ハム番24時》12月30日 拡大版②
4月中旬、ストレッチを始めようとしていた松本剛に恐る恐る声をかけた。開幕から打撃が振るわず、打率は1割台に低迷。しかも前日の試合はスタメン出場しながら、大事な場面で代打を送られていた。気軽に雑談できる状況ではなかったが、屈辱的な現実をどう受け止め、次に生かそうとしているのか、知りたかった。
こちらの不安をよそに「気を使わなくていいですよ」と快く応じてくれた。そして、冷静だった。「去年は数字が気になった部分が正直、あった。こんなんで出ていいのかな、とマイナス思考になって。今年は絶対にそれはなくそうと思って。どんな時もスタメンで行ってやると。そういう気持ちを大事にしている」と心構えを説いた。
常に結果が求められる世界。悔しさ、怒り、落胆などマイナスの感情と隣り合わせで、悪循環に陥ると抜け出せなくなる。平常心で打席に入ることが最優先だった。「目先の結果、数字にこだわりすぎず、ポジティブシンキングにしたい。一時的な感情は絶対に生まれる。そこを我慢するのは無理なので、ひとまず感情に任せて。でも2、30分たった時、われに返って、あるべき姿に戻れるように心がけている」。アンガーマネジメントのような手法を取り入れ、実践していた。それが自分のため、チームのためになると信じていた。
帝京高から鳴り物入りでプロ入りしたが、2軍暮らしが長く、コンバートも経験。自ら認めていたが、回り道だらけだった。そんな過去を振り返り「なかなか難しい立ち位置からレギュラーで出るようになって今、こういう立場になっている。何か、14年目にして初めての感情があるかな」と静かに打ち明けた。初めての感情…。たぶん、松本剛は言葉にしながら、考えを整理していた。真意を尋ねたら「例えば、レギュラーではなくなって、場面場面に適応した選手になっていくのか、もう一回、つかみにいけるか。それは自分次第なんだけど、楽しみな部分がある」と続けた。
強がりには聞こえなかった。ただ、レギュラーの座を失いかけている厳しい現状と「楽しみ」というワードが合致しなかった。それを正直に伝えると「もちろんあと5年ぐらいはレギュラーを張ってやる、30代後半までレギュラーで出たいという気持ちはある。でも現に今、レギュラーで出られていない。それが事実。自分に期待しつつ、この先どうなっていくんだろうと。それを考えるとわくわくする」と補足してくれた。
少しだけ、理解できた。若手時代から苦労の連続だったから、多少のことでへこたれない。どんな未来も受け入れる覚悟ができているのだろう。「なんか僕、苦しいとか、もう思わないんですよ。苦しかったから、ずっと(笑)。1軍にいられない時間の方が長かったし。でも、面白いことに、まだまだガッツリ活躍できると思っているんですよ。コツコツやっていればきっと…」。挫折をバネにしてきた過去がある。折れないことが強さの証明だ。ファイターズを離れても気になる存在。遅咲きの苦労人が描くストーリーの後半を楽しみにしている。