コンサドーレ
2025/10/13 07:00 NEW

《赤黒の未来・アカデミーの挑戦》②2軸で育むクラブ愛

第2回はアカデミーグループを統括する石川直樹ダイレクターのインタビュー

アカデミー世代の育成こそクラブの生命線

 北海道コンサドーレ札幌の石水創社長(43)は、アカデミー世代の育成をクラブの生命線と説き「トップチームの強化以上に大事かもしれない」と言う。Jリーグは若手選手育成を促すことを目的に2019年からホームグロウン(HG)制度を導入しており、同制度は地方クラブが抱える課題と深く結びつく。道新スポーツデジタルでは札幌のアカデミーに関わる人物たちに焦点を当て、クラブの未来を占う。第2回はアカデミーグループを統括する石川直樹ダイレクター(39)のインタビューを掲載する。

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 コンサドーレは道内各地に下部組織の拠点を構え、総勢400人を超えるアカデミー選手の育成に励んでいる。大所帯を束ねる石川氏は、赤黒の若き才能を伸ばすため様々な施策を練り、予算管理や環境整備など組織編成における重要な役割を担う。現役引退から5年。毎オフ欧州へ渡って知見を広げる男は、世界基準の育成法を札幌流にアレンジし、長期的視点でクラブ強化を図っている。

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プロ以上に地域に根付けば素晴らしい

―札幌アカデミーの存在意義とは
「僕は地元の柏レイソルのアカデミーで育って柏、仙台、新潟、札幌の4チームを選手として見てきました。地域の特性を見たときに北海道は特殊だなと感じています。この島に約500万人が住み、そこで唯一のプロサッカークラブとしてコンサドーレが存在する。これは相当、特別なことです。関東では当たり前のように県に2、3チームある。各県に1チームの場合でも北海道のような人口はいないし、札幌のような大都市圏もない。コンサドーレにはとてつもない価値があると感じているし、そのクラブの土台を支えるのがアカデミーだと思っています。道民の皆さんに応援してもらうためにも、土台となるアカデミーがプロ以上に地域へ根付けば素晴らしい。道内各地から来ている選手たちが学校に通い、日常生活を送る中で、応援される存在であってほしいと願っています。アカデミーの強化なくして、トップチームの強化はできない。そこにコミットすることが僕の仕事。そのプロジェクト、施策を常に考えています」

―島国の北海道は他県と環境が異なるか
「全く違います。他クラブの全てを分かってはいませんが、北海道の方々がクラブに注いでくれる熱量は本当にすごい。アウェーに行っても関東後援会があるなど、北海道を中心にいろいろな地域で応援してもらえる。そういうサポーターの方々がいるスペシャルなクラブです」

―特別な土壌がある中でアカデミーを強化する難しさは
「簡単ではないけど、やりやすい環境と感じています。アカデミーは北海道に由来のある子供たちを育てるため、道外の選手は受け入れていません。500万人の中にいる原石、子供たちにコンサドーレへ入りたいと思ってもらい、僕たちはしっかり指導する。そこからトップチームへ導いて、人としても北海道を代表するサッカー選手を輩出したい。島国はネガティブに捉えられることもあるけど、その循環ができればコンサドーレにしかできないメリットが生まれる。コンサドーレ1強になれる環境があるからこそ、あぐらをかかず進歩しないといけない。住んでいる人にもっと応援され、認めてもらえるように。いろいろな意味でチャンスがあると思っています」

―8月上旬までU-18を指揮していたトップチームの柴田監督は、バスク地方にルーツを持つ選手でチームを構成するスペインのクラブ『アスレチック・ビルバオ』が1つのモデルになると話していた。実際に視察した石川さんは、コンサドーレの取り組みに通ずる部分を見出しているか
「バスクの子しかアカデミーに入れず、おらが町の選手をしっかり育ててプロへ送り出す。向こうには、そんな100年以上の歴史があります。選手を売るならば高い価値を付けて、外へステップアップさせるのがビルバオのやり方です。バスク地方にはレアル・ソシエダやエイバルなど何チームかあり、バスク地方の中でも奪い合いになっている。だからこそビルバオの血を少しでも広めないといけない、ということで地域貢献や普及活動にお金とエネルギーを注いでいます。札幌と地域性の違いはあるけど、おらが町の選手がビルバオに憧れ、ビルバオに入るために頑張ってやっていくという形は、うまくコンサドーレに取り入れられるのでは? と思って研修に行きました。すごく面白かったですね」

―現地の子供は小さい頃からビルバオのサッカーに取り組んでいるのか
「取り組んでいます。1本の軸があってプロ、ユース、ジュニアユースと下の世代に行くほど戦術は薄まっていくけど、ベースとなるアスレティック・クラブ・ビルバオとして大事な価値観、クラブフィロソフィーを徹底しています。それはサッカーだけではない。いろいろな試みをしていて、僕は向こうのスタッフたちを見て教育者だと感じました。例えば小学生年代に良いなって思ったのは、自分の選手カードをつくらせていること。Jリーグカードみたいなものでスピード80、テクニック70…みたいな。フォーマットがあって、小学生が自分の顔写真を貼ってつくって、チーム内で紹介し合う。自分の良いところを客観的に見つめて、それを人に伝える。仲間はそれを理解して、この子はスピードが武器なのだと受け入れる。じゃあパスを出すときはスペースに長く出そうかって相互理解につながる。大事な人とのコミュニケーション。人の話を聞き、伝えるアクティビティーにビルバオは取り組んでいました」

―札幌に落とし込める取り組みは、他クラブにもあったか
「めちゃめちゃありました。引退してから5年目。僕は年に1回は必ずヨーロッパへ行こうと思っていてバルセロナやアトレチコ、FCポルトも行きました。でも、欧州のクラブが100年の歴史の中でトライしていることを、丸ごと日本に持ってきても上手くいかない。文化も歴史も違いますから。ヨーロッパの良いところをポンッと持ってきて、その背景を無視して日本でやっても簡単には上手くいきません。例えば日本人の良いところである謙虚さは、向こうでは良いと見なされない。僕がアトレチコ・マドリードへ行ったとき、最初にアカデミー・ダイレクターを紹介してもらいました。そのときに『お前は英語かスペイン語を話せるか?』と聞かれ、僕は謙遜してどちらも話せないと返事をした瞬間に、背を向けて帰ってしまいました。そこから2週間の研修期間中に、二度と会うことはなかったです。『言葉が分からないから、何を言っても意味がない』と思われてしまったのかな。このときに僕は、嘘だとしても英語を喋れると言わなければいけなかった。これが良い学びになったので、翌年からは挨拶程度しか分からないけど、俺は英語ができるから英語で話してくれと頼んでいます。実際は通訳がいるおかげで上手くやっていますけど(笑)。そういうところに行かないと日本の良さは分からないし、世界の良さが簡単に合うわけではないということも分からない。お互いの良いところを上手く取り入れる必要があって、今はコンサドーレに合うように角を取り、色や形を変えながらトライしています」

―さまざまな取り組みの中で特に力を入れたいことは

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