アマスポーツ
2023/10/20 18:50

《人ほっとコーナー》28年ロス五輪で競技種目に復活したラクロスの北海道第一人者・小松香織さん(48)

北海道ラクロスの第一人者である小松香織さん

120年ぶりに五輪競技に

 IOC(国際オリンピック委員会)の総会が10月16日にインドで行われ、2028年に開催されるロサンゼルス五輪での追加競技5種目が承認された。日本国内では東京五輪での金メダル獲得が記憶に新しい野球・ソフトボールが2大会ぶりに復活することが大きな注目を集めたが、その中には世紀を越えて復活を遂げた競技もあった。その一つが1908年のロンドン五輪以来、120年ぶりに開催されるラクロスだ。

「世界的にもそういう競技になった」

 現在、日本ラクロス協会事務局次長として北海道地区を担当する小松さんは、「大学でラクロスを始めてから30年ぐらいになるけど、五輪種目になるということは考えていなかった。候補に挙がったのも割と最近の話なので、驚いているのと同時に、世界的にもそういう競技になったんだなと感じています」と喜んだ。

 ラクロスは、先端に網が付いたアルミニウム製のスティック(クロスとも呼ばれる)を駆使して、ボールを網の中に入れて持ち運んだり、パス交換をしながら、180センチ四方の相手ゴールへ向かって攻め込んでシュートをし、得点を競う団体競技。日本の競技人口は男女合わせて約1万4000人だ。

北海学園大1年時に雑誌で見つけて興味

 北海道でも現在大学、社会人合わせて男女計19チームが活動中。現在開催中の北海道学生リーグ戦は今年で第28回を迎えるなど、歴史を積み重ねてきたが、その第一歩を踏み出したのは他でもない小松さんだった。

 93年、北海学園大1年だった小松さんは、書店で見つけた雑誌に掲載されていた千葉県の高校のラクロス同好会の記事を目にする。未知の競技に興味を抱き、自分もやってみたいという思いを胸に、道具を購入しようと札幌市内のスポーツ店に問い合わせたが、取り扱いはおろか、競技自体さえ全く知られていない。雑誌で紹介されていた高校から日本ラクロス協会の連絡先を聞き、札幌市内にチームがあるかを尋ねたが、返ってきた答えはノーだった。

翌年に約30人で道内初の部を立ち上げ

 一度は希望が失われかけたが、東京から道具を取り寄せられることが分かり、情熱が再燃。友達やクラスメートにも思いが伝わり、30人ほどの部員が集まったことで道内初となる北海学園大女子ラクロス部が翌年に創設された。試合のルールすら分からない状況での船出となったが、練習メニューを教えてもらうために関東の大学へ手紙を送ったことをきっかけに、札幌在住のプレー経験者と出会い、直接指導を受けられることとなった。

徐々にチームが増え、95年には男子も

 北海学園大での創部に呼応するように、94年には札幌国際大、藤女子大、北海道大でも女子ラクロス部が立ち上がり、豊平川の河川敷で合同練習を行う日々を過ごした。翌年には男子も北海学園大と北海道大で創部。同年10月には初の公式戦となる第1回北海道ラクロスリーグ戦が開催された。

 大会の運営を引き受けてくれる大人はおらず、全てを学生たちでやらなければならない状況ではあったが、「自分たちがやりたいことをやれるようにやっていたので、あまり大変に感じることはなかった記憶があります」と振り返る。

ラクロスは人をつなぐ

 この「学生による自主運営」という文化は現在に至るまで脈々と受け継がれており、今でも全国の学生リーグ戦はほぼ全ての面において現役でプレーする学生たちの手によって運営されている。日本ラクロス協会はその理念として〝LACROSSE MAKES FRIENDS.(ラクロス・メイクス・フレンズ)〟を掲げている。その言葉通り、学生プレーヤーたちは大学の垣根を越え、共に力を合わせて競技や文化を〝すばらしい作品〟にするために日々奮闘している。

 小松さんは大学卒業後もコーチなどを行いながら携わっていたが、日本ラクロス協会からの要請もあり社会人2年目に北海道地区の代表に就任。以来、現在に至るまで北海道ラクロス界の成長を見守り続けている。

経験年数が少なくても実力次第では代表も

 現時点で道内の大学でプレーしていた選手が日本代表にまで上り詰めた例は無いが、「私も17年にU-22女子代表のGMを務めたけど、北海道にいても代表での活躍の場はあるので、選手たちには代表入りの可能性を信じて頑張ってほしい」とエールを送る。競技人口の少なさゆえ、経験年数が少なくても実力次第では代表入りすることは決して夢ではないラクロス。5年後、五輪の舞台に立っているのは、これを読んでいるあなたかもしれない。


■プロフィール 小松 香織(こまつ・かおり) 1975年2月10日、札幌市生まれ。ラクロス競技の北海道第一人者で、北海学園大時代の94年に道内で初めて部を立ち上げた。現在、日本ラクロス協会事務局次長として北海道地区を担当。今後の目標は、ラクロスをジュニア層にも広めていくこと。趣味はスポーツ観戦で、特にサッカーやラグビーを好む。家族は夫。猫を2匹飼う愛猫家。


〇…今年の道内学生王者を決める「北海道学生ラクロスリーグ戦決勝戦」が10月21日、札幌厚別公園競技場で行われる。午前10時から行われる男子決勝は北海道大と北海学園大が、午後1時45分開始の女子決勝は北海道大と北翔大が対戦する。午前9時開場で、入場料は大学生以上が1100円、高校生以下は無料。先着1000人に日本ラクロス協会とパートナーシップ契約を締結した日清食品の商品がプレゼントされる。詳細については「JLA日本ラクロス協会北海道地区」の公式インスタグラムを参照。

8月19日に行われた北海道学生ラクロスリーグの開幕戦。攻める北海道大と守る北海学園大がゴール前で攻防を繰り広げる

 


■ラクロスとは
 17世紀ごろ、北米の先住民族が祭事や鍛錬のために行っていた儀式をスポーツ化したものが起源であると言われている。カナダやアメリカ、イギリス、オーストラリアなどで盛んに行われており、日本では1986年に慶応義塾大の男子学生が最初のチームを結成した。

 男女ともに両チーム10人ずつ(28年ロサンゼルス五輪は6人ずつで実施)、15分×4クオーターで、シュートで挙げた得点を競う部分は共通しているものの、用具やフィールドの広さ、ルールは男女で大きく異なる。

 男子は全身に防具を装備し、ボディーアタックも可能。トップ選手のシュートスピードは時速150キロを超えることから『地上最速の格闘球技』という異名も付けられている。

 女子はユニホームの華やかさが話題になることも多いが、フィールドを所狭しと駆け回るスピードと運動量、巧みなスティックワークが要求される。見た目とは違った激しさも秘めたフィールドスポーツである。

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