北海学園大から過去最多3人指名 市議と兼任する島崎圭介監督が無報酬で指導する理由
広島から4位指名を受けた工藤(左)とオリックスから5位指名を受けた高谷(右)と記念撮影する北海学園大の島崎監督=撮影・村本典之
全日本選手権でのベスト8も追い風に
2025年のプロ野球ドラフト会議が終了し、北海学園大から道内過去最多の同時指名となる3人が指名された。工藤泰己投手(4年)が広島から4位、高谷舟投手(4年)がオリックスから5位、常谷拓輝内野手(4年)が日本ハム育成1位でそれぞれ指名を受けた。
同大からは中日・川越誠司(32、北海高)、巨人・鈴木大和(26、北海高)に続いての指名。6月の全日本大学野球選手権で46年ぶりに8強入りしたこともアピールにつながった。これまで道内のチーム単体から同時指名を受けたのは、21年北海高の木村大成投手(22、ソフトバンク)と大津綾也捕手(22、巨人育成)など、2人が最多だった。全国でも異色の環境の中で異色の取り組みをする島崎圭介監督(54)に注目した。
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2人が支配下入りして活躍を期待
プロ志望届を提出した6人の教え子の隣で、ドラフト会議の模様を心配そうに見つめた島崎監督だったが、道内から過去最多の同時指名を喜んだ。「工藤に関しては、とにかくボールが強いですから中継ぎとか抑えとかの需要もあるかもしれないけど、高谷についてはオールマイティーで、どこでも投げられると思いますので、先発完投とか、そういったピッチャーを目指してほしい。工藤に関しては本当にマイペースで、自分がやろうと思ったことはしっかり貫く選手。高谷も明るく、自分の信念を貫くタイプ。この後のステージに行っても十分活躍できるんじゃないか」。これからプロの荒波に向かう教え子らと、がっちりと握手を交わした。
北海学園大で指名された(左から)オリックス5位指名の高谷、広島4位指名の工藤、日本ハム育成1位指名の常谷
全員が夜間部でスポーツ推薦もなし
大学野球界の中では、異色の野球部、異色の経歴を持つ指揮官だ。6月の全日本大学野球選手権に出場した大学は、優勝した東北福祉大を始め27校。そのなかで唯一、選手全員が夜間部(2部)の学生で構成されているのが北海学園大だ。同大には特待制度もスポーツ推薦制度もない。みんな一般受験に合格して入ってきた学生たちだ。
市議会議長の公務と並行して指導 150人規模の部員たちのために…
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野球部の資金も決して潤沢ではない。東京六大学や東都の強豪の資金とは「10分の1くらいじゃないかな」と島崎監督。例年、春季キャンプは雪に閉ざされた北海道を飛び出し、土のグラウンドを求めて九州や関東で行うが、費用は学生が自費で捻出している。部員は150人規模のため複数班に分かれて遠征を行うが、北広島市議会の議長というもう一つの顔を持つ指揮官は公務もあるため、何日も地元から離れるわけにはいかず、一旦、北広島に戻って来てから再び現地へ飛ぶことも。その際の移動費はもちろん自腹だ。
2019年10月、北海学園大野球部の監督に就任した島崎監督
監督、指導者としての報酬はゼロ
母校の野球部に携わるようになって13年目。完全無報酬で指導者を続けている。12年7月のコーチ就任時は1学年ごとの部員が10人台だったが、現役時代に所属したNTT北海道での人脈や札幌日大高監督時代の交友関係を活用し、全道の高校指導者へ受験してもらえるようお願いに回ったこともあるという。
部員は徐々に増えていき、19年秋に監督へ就任すると、21年春には60人以上の選手が入部してきてくれた。今年は2年連続で4学年150人規模に膨らんだ。それでも無償で監督を続ける理由はただひとつ。「母校を強くしたい。それ以外はないですよね。人に任せられないから、自分でやれる限りのことをやるという身構えは変わってはいない」と力を込める。
大所帯となり練習には工夫が必要
練習環境も充実しているとは決して言えない。大学から離れた高台にグラウンドはあるが、同大の準硬式野球部と供用しているため、1週間の中で終日使えるのは火曜、木曜と、週末のどちらか1日。月、水、金曜日は午後のみで、授業の関係上、午後4時には練習を終えなければならない。「グラウンド練習を思うようにさせてあげたいから、ケージの手配とかグラウンド環境整備とか、大学やいろんなところと話しながら作ってきた。150人の練習を見なきゃならない時に、班分けや選手をうまく回す環境作りで苦労したなとは思いますけど、とにかく選手たちに練習の機会をたくさん与えよう」と、効率的な練習をするため常に気を配ってきた。
2020年9月1日、札幌6大学野球で指揮を執る島崎監督(中央)
主要電源は学生のコーチとスタッフ
週末を中心に2人のOBコーチが指導に来てくれるが、平日はほとんど島崎監督1人だ。そこで頼りになるのが、学生コーチとマネジャー、アナリストだ。「うちの主要電源ですね。彼らに対しては口酸っぱく、選手以上に言っている」。4年から2年まで7人の学生コーチについて「とにかく練習メニューの組み立て。僕から降ろしてるオーダーに対して練習メニューを組み立てたり、オープン戦に行く時に、メンバーのたたき台を持ってきて、こういう選手どうなんだ、今こいつどうなんだとか、あいつをメンバーに入れてないのはどういう理由なんだとか。現場で365日見てる学生コーチの意見を尊重するようにはしている」。指揮官の目となり、耳となって、サポートしている。
アナリストがプロ野球の西武へ就職
マネジャーは6人。そして2人のアナリストに関しては、「ただデータを取って打ち込んでるだけじゃなくて、そこから何を抽出しようとするのか、監督は何を目標、目当てとしてるのかを洗い出して、そこから作る2次データが大事」。22年に同大初のアナリストに起用した加藤拓光さん(25)は、卒業後の昨春、西武のバイオメカニクス担当として〝プロ入り〟した。
今年5月23日、北広島市市議と二刀流の島崎監督(上)は、公務の影響で札幌6大学野球の優勝決定直後に駆けつけ、選手から胴上げされる
コーディネーションの練習を重視
選手の育成法にもこだわりを持つ。ウエートトレーニングでつけた筋肉を、野球の動きにつなげるコーディネーショントレーニングを重視。「肩甲骨の動きとか、股関節の動きとか、目の動きとか、首の向きとか、姿勢、そういったトレーニングを自分たちでも研究しながら、こっちでもアドバイスしながら、自分で気に入ったトレーナーさんのところに行ってトレーニングしたり、積極的に意識づけしましたね」。自らが大学時代に筋トレで飛躍的にパフォーマンスが上がった経験から、選手としての土台づくりに重きを置いている。
プロに向けた育成がチーム強化にも
来シーズンへ向け、才能豊かな投手や打者が腕を磨いている。この秋、2季連続優勝は逃したものの「上を目指せる選手を育成していくことが、リーグ戦の勝ちとか全日本の勝ちにつながっていくことを今回、肌で感じた。今年の4年生の投手とかチーム力が(今後の基準の)最低レベルになっていく、そういう目安ができたことはすごく良かった。全日本に行った時のチームはこんなもんじゃないよとか、ここの部分は勝ってるから伸ばしていこうぜとか、来年に向けて(指導者が)言える材料は去年までより増えたことは間違いない。その舞台を経験している3年生以下が10人ぐらいいる。この経験値を、また来年以降に発揮したい」。チームづくりに休みはない。北の大地から学生日本一を目指す指揮官の挑戦は続いていく。
6月9日、全日本大学野球で北海学園大の指揮を執る島崎監督
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■プロフィール 島崎 圭介 (しまざき・けいすけ) 1971年6月18日札幌市生まれ、北広島町(現北広島市)育ち。北海高では1年秋にベンチ入り。3年夏の甲子園に出場した。北海学園大では2度の1部リーグ優勝と2度のMVP受賞。4年時にはドラフト候補にも名前が挙がった。社会人野球のNTT北海道では都市対抗野球に2度出場。引退後に指導者となり、札幌日大高では監督として2002年選抜甲子園に導いた。19年秋に北海学園大の監督に就任。21年春のリーグ戦を制し、同大30年ぶりの全日本大学野球選手権へ出場。23年秋、25年春と3度のリーグ優勝を果たした。北海学園大での主な教え子には、中日・川越誠司外野手(32)、巨人・鈴木大和外野手(26)らがいる。