高校野球
2023/02/01 18:00

駒大苫小牧高の松葉投手が東海大札幌初の女子学生コーチへ≪新天地で輝く≫

NO.1ポーズをきめる駒大苫小牧高の松葉

夢は高校男子硬式野球部の指導者になって甲子園出場

 夢は女性監督初の甲子園だ! 駒大苫小牧高女子硬式野球部の松葉桃香投手(3年)が、今春から札幌学生野球連盟1部の東海大札幌キャンパス国際文化学部に進学。同大初の女子学生コーチとして将来の高校男子硬式野球部の指導者を目指す。高校時代はコロナや右肘のケガで思い描いていたものではなかったが、新天地で新たな境地を切り開く。

 金属バットをノックバットに持ち替え、大学野球の舞台で指導者を目指す。「タテジマのユニホームがカッコイイ」という東海大札幌では、「今までの経験を少しでも生かせたら。選手として見てきたものとは全く違う感じになると思うけど、選手の気持ちはわかる。ゼロからのスタート」と気持ちを引き締めた。高校でプレーヤーとしての未練は捨て去り、大学では先輩の学生コーチに学びながら、夢の実現へ、その第一歩を踏み出す。

 札幌稲穂中までは男子と一緒にプレーしていた。高校では「甲子園に行きたい」と、男子野球部でのマネージャーを希望し、市内の強豪校を見学して回った。ところが駒大苫小牧高に女子硬式野球部が発足するのを知り、同中3年時の11月に周囲の勧めでオープンスクールに参加した。「(駒苫は)マー君しか頭になかった」というが、2004年と05年夏の甲子園優勝時の副部長、部長で、女子野球部を指揮する予定の茶木圭介監督(45)に出会い、その熱意に「1期生として自分たちで歴史をつくることができる」と進学を決意した。

 20年4月に入学。寮に入り、野球漬けの毎日を送るはずだったが、新型コロナによる緊急事態宣言で「2週間で地元に帰らされた」という。予想だにしないスタートとなり、再び戻った5月末にも新たな難問にぶち当たった。グラウンドはソフトボール場が用意されており、「全然、野球仕様じゃなくて。まず、この広さで野球ができるの? 得点ボードも、ネットもなくて」と当時の不安を振り返る。そこで茶木監督から言われたのは「君たちで作ればいいんじゃない?」。それからは「(土が)ボコボコなところを自分たちで毎日ならして、石や枝とかも全部拾った。OBの方の寄付とかで、ネットもついた」と少しずつ環境は整っていった。「1年の時は、ずっと練習してた記憶しかない」。冬も屋外で練習するのは女子野球部も一緒だった。コロナ禍で大会が相次いで中止となる中、目標を見失いそうになりながらも必死に練習に食らいついていった。

昨年2月に右肘靱帯損傷 高校野球は不完全燃焼のままゲームセット

 2年生になる直前の21年3月、初出場の全国野球選抜大会で初陣初勝利を挙げた。夏の全国選手権大会でも2大会連続で初戦を突破。ところが22年の2月、右肘が突然悲鳴をあげた。直前までのブルペンでは絶好調。茶木監督からも「その状態を維持して上げてくれれば(今年も)いけるなって言われて、その言葉がすごい自信になっていた」。しかし、次の練習時に右肘に痛みが走った。「言えない。どうしよう」と迷い、最初は痛みを隠して練習に参加したが、監督にすぐに気づかれた。診断結果は「右肘靱帯(じんたい)断裂の手前、損傷みたいな状態」だった。高校ラストイヤーとなった3年時は、地道なリハビリなど復帰へ向けて最後まで諦めなかったが、春夏はベンチ外に終わった。「監督さんにケガをして申し訳ないなっていう気持ちが正直、一番ありました」。松葉の高校野球は不完全燃焼のまま、ゲームセットを告げられた。

 大学では「絶対に選手はやらない」と心に決めた。ところが「大学のマネージャー(主務)は高校と違ってグラウンドに入ることはあまりない」と聞き、札幌新陽高女子野球部出身で北海学園大の学生コーチをしている1学年先輩の井上美優さん(1年)に相談した。そこから東海大札幌の体験会に参加することになった。

「受け入れてくれた日下部前監督、藤田新監督に感謝しています」

 体験会では、日下部憲和前監督(70)と、当時コーチだった藤田翔新監督(29)に「グラウンドで野球がやりたくて、学生コーチ志望です」と話してみると、その熱意は伝わり快諾してくれた。昨年12月に推薦で合格し、晴れて入学が決まった。「学生コーチとしてはもちろん、マネージャー業でもお手伝いできることがあれば、全面的にチームをサポートしていきたい。男尊女卑なく受け入れてくれた日下部前監督、藤田新監督さんには感謝しています」と、理想の形で野球を続けられることになった。

 4年間で高校の教員免許資格も取得する。これまで、道内の高校男子野球部には女性監督はいない。「監督って責任ありますよね。監督じゃなくても、(指導できる夢が)叶うなら男子の方に就きたいですね」。突き動かすモチベーションはいまも変わらず「目指せ!甲子園」。華やかなキャンパスライフからは少し縁遠くなるが、「そんなん必要ないんですよ。そんなんしてたら、お金もかかる」と笑い飛ばす18歳。グラウンドで選手と一緒に泥まみれになり、両手をマメだらけにしながら、指導者の道を切り開く。


■プロフィール 松葉桃香(まつば・ももか) 2004年6月30日、札幌市生まれ。野球をしていた3人の兄の影響で札幌稲穂小4年時に稲穂ホークスに加入。主に投手で5年時の札幌市内大会では、当時手稲ヤングスターズのエースだったプロ野球選手の茨木秀俊投手(18、阪神)と投げ合った。さらに女子の札幌ダイヤモンドガールズでもプレーした。札幌稲穂中では硬式野球の札幌手稲ボーイズで投手兼一塁手として在籍。1年秋に全道準優勝に貢献し、全国大会にも出場した。163センチ、56キロ。右投げ右打ち。家族は両親と3人の兄。

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