プロスポーツ
2022/12/16 21:00

《人ほっとコーナー》反中祐介さん(31) 札幌在住のプロトレイルランナー

山道を走る反中さん(本人提供©島崎貴裕)

中高では陸上長距離に没頭するもケガで断念

 トレイルランニングとの出会いは突然訪れた。中高は陸上部で長距離走に没頭していたが、高校終盤に負傷した怪我と意欲の損失の影響で、進学した城西大では陸上競技との関わり方を考えるようになった。

 その後、市民ランナーのランニングコーチとして活動していると、ある一般のランナーから「トレイルランニングを教えてほしい」との依頼を受けた。それまでトレイルランニング未経験で知識のなかったことから、「経験してないことを指導するっていうのはちょっとイケてない。まずは経験した上で、いろいろと対策を練ったりとか、自分の感覚でそれを言語化して指導したい」と、反中さんの挑戦は始まった。

初のレースは「失敗という失敗は全部した」低血糖、脱水症状に滑落まで

 初めて出場したOSJ奥久慈トレイルレースは「結構、なめていた」と失敗の連続だった。装備するギアも前日などに現地調達して臨んだが、コースを外れたり、低血糖、脱水症状にも陥った。さらに山中で滑落して血だらけのまま走ることになるなど、「失敗という失敗は全部した」と苦笑いする。

 その大会での結果が闘争心に火を付けた。「こんな悔しいレースをしたことがなかったので、そこの難しさにやりがいを感じた」。普通のマラソンとは違い、山道を走ることで、足の動きは一定ではない。ペース配分や水分補給のタイミングも違い、さらには自然環境や走行距離によって装備するギアも変わってくる。「ゲーム性があって、いい意味で頭をすごい使える。そこが楽しい」と目を輝かせる。

恵まれた環境求め札幌移住 競技の普及目指し独立

 この競技にどっぷりとハマると、その後は「奥飛騨トレイルラン」や「ピークハントトレイル」で優勝するなど、実績も着実に積み上がってきた。そして「Salomon」に所属していた6年ほど前、札幌に移住してきた。北海道の自然豊かな環境にはすぐに惹かれた。「やっぱ自然が近い。夏場で言えば湿度が少ないので、ストレスは本州と比べると少ない。運動に適している」と魅力を語った。

 その一方で「こんなに恵まれた環境なのに、何でこの競技が定着してないんだろう」との疑問も抱いた。その違和感に北海道の伸びしろを感じ、昨年5月に独立。プロトレイルランナーとして活動することを決めた。

 「選手活動と普及活動を両立をしていきたい」と、競技以外にも多忙な日々を送る。スキーヤーやスノーボーダー、その他にもサーファーやマウンテンバイカー、サウナ―などとも異業種交流を重ね、トレイルランニングを広める普及活動を積極的に行っている。

2月からは中川町へ「あそこを超える田舎ってあんまりない」故郷と親近感

 そして、さらなる挑戦をするべく、来年2月からは拠点を道北の中川町に移す。人口190万人都市の札幌から約1300人の町へ行くことになるが、「良い意味で田舎はいろんな物事の選択肢が極力ないというか、そういうシンプルなのが、すごい新鮮」とニッコリ。

 周囲は自然に囲まれ、トレイルランニングを行うにはこれ以上ない環境だ。また、生まれ育った地元ともリンクするものがあった。岐阜・高山市上宝町(旧吉城郡上宝村)で生まれ育ち、「多分あそこを超える田舎ってあんまりない。そこに似た雰囲気」を感じ、親近感を抱いた。田舎からのチャレンジ、その先には大きな目標がある。

 「地域格差とかがある中で、トレイルランニングが田舎を盛り上げるコンテンツになるんじゃないかなって思って。ただ楽しむだけじゃなくて、行った地域が盛り上がるっていうような仕組みを作っていきたくて。そのモデル作りをするために独立した」。競技者としての向上のみならず、地域創生をも見据えている。トレイルランニングで北海道を盛り上げるため、まだまだ走り続ける。


◇トレイルランニングとは 中長距離走の一種で未舗装路を走る競技。砂地や土の道、林道、雪道などの環境で行われるスポーツで、山岳レースとも呼ばれている。主に防寒着や飲料、補給食、地図、コンパス、ライト、救急キッドなど、さまざまな装備をバックパックに収納して走行する。距離や難易度はさまざま。長いものでは距離にして100マイル(約160キロメートル)、時間にすると約24時間以上走り続けるものもある。今年は、最後まで走った選手だけが勝利者となる「バックヤードウルトラ ラストサムライスタンディング」という耐久レースが、北海道で初めて開催された。


■プロフィール 反中祐介 (たんなか・ゆうすけ) 1991年9月27日、岐阜県高山市上宝町(旧吉城郡上宝村)生まれ。益田清風高時代は陸上部で長距離種目を競技していた。城西大在学中にランニングチームのコーチを務めている間に、トレイルランニングと出会う。卒業後は「Salomon」に所属し、2021年にプロトレイルランナーに転向。拠点を札幌に移し、プレーヤー、伝道師としての活動に尽力している。主な成績は、15年「奥飛騨トレイルラン」優勝、16年「八ヶ岳スリーピークス」準優勝、17年「万里の長城マラソン」4位、19年「高隈山ピークハントトレイル」優勝など。171センチ、56キロ。家族は父、母、兄、弟。

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