特集
2022/06/10 15:00

【西川薫】高校、大学、プロで―道内関連2度のノーノー同時達成でにぎわう春の球界

6月7日に東海大札幌・渡部が、その夜にはDeNA・今永が札幌ドームで

 10年にも満たない野球取材で、これほどノーヒットノーランという快挙が立て続けに起きたことは記憶にありません。しかも、1日2度が2度も。まずは、6月7日の神宮球場で行われた全日本大学野球選手権。札幌六大学代表・東海大札幌のエース左腕・渡部雄大投手(4年、函館亀田中出身)が、中国地区代表・環太平洋大相手に大会史上7人目の快挙を成し遂げました。そして、その夜、札幌ドームで行われたプロ野球・DeNAベイスターズの今永昇太投手が、札幌ドームでは初となる快挙を北海道日本ハムファイターズ打線相手に達成。なんとも皮肉な結果です。

5月10日に全道高校支部で函館工・五十嵐、道科学大高・竹田が達成

 また、今春の全道高校野球支部予選では8年ぶりのノーヒッターです。5月10日の函館工・五十嵐諒真投手(3年)が函館大谷戦で、さらに同日、北海道科学大高・竹田一翔投手(2年)が札幌月寒相手に達成。プロ野球と違って、チームの実力差がある場合は、九回完遂の前にコールドが成立するケースが多く、ある程度、実力が拮抗していないと生まれないはずですが、それが1日に2度も飛び出したのだから、記者もびっくりです。

 プロ野球全体を見てみても、4月12日のロッテの佐々木朗希投手の完全試合に始まり、約1カ月後にソフトバンクの東浜巨投手。そして今永投手と、そんなにポンポンと出されると、偉業の価値が低くなってしまうのではないかと心配してしまったりもするのですが、歴史に名を刻んだノーヒッターたちと、それを支えた守備陣の好守にあらためて最大限の称賛を贈りたいと思います。

「やるなら地元で」道産子左腕が技術と自信を引っ提げ帰郷

 東海大札幌の渡部投手は中学硬式の函館港西リトルシニア時代、道内〝ナンバー腕〟と注目されました。東海大甲府高では1年春に公式戦デビューしましたが、甲子園には出場できませんでした。ただ、その実力は確かで、大学進学時には東海大本校へのセレクションにも合格。しかし進路は最終的に地元へのUターン。決して、全国から集まった猛者たちが繰り広げる激しい部内競争を勝ち抜く自信がなかった訳ではありません。「やるなら地元で」と、決意と野望を抱いて、自らを磨き上げてきました。リーグ戦デビューは2年秋。昨季までは主に中継ぎで、3年間で1勝の左腕が、今春は先発で6戦6勝。4年ぶりの全国切符をつかみ取る原動力になりました。オフから取り組んできた臀部(でんぶ)、肩甲骨、股関節まわりの柔軟性アップが、投球フォームのスムーズな体重移動を可能にし、それに伴い下半身から練り上げたパワーを無駄なく指先に集約できるようになり、7種類の変化球と精度の高い制球力を兼ね備えた投球へと変貌を遂げました。

 全国デビュー戦で、いきなりのノーヒットノーラン達成。好投の予感は感じていたようですが、ここまでとは本人も思っていなかったようです。一回の1球目、調子のバロメーターというブレーキの利いた107キロのカーブでストライクを奪います。「練習からコンディションが良かったので、いけると思ってました。指のかかり、体の動きがいつもと違うなと感じていた。結構、紙一重の部分があるんですけど、調子良すぎると浮足立っちゃって調子が悪くなる。そこを意識して調整しました」。この試合で投げた変化球は、100キロ台のカーブ、120キロ前後のスライダー、130キロ前半のカットボール。チェンジアップ、フォークボール、ツーシームの6種類。球速差は実に40キロ。緩急を使った丁寧な投球で、神宮球場のスコアボードにならんだ「0」は9個。環太平洋大の安打を示すHランプは最後まで灯ることはありませんでした。

NPBスカウトも注目 無名投手が一躍全国区へ

 ノーノーを達成した瞬間の写真が、翌日の本紙1面を飾りましたが、試合後の囲み取材では、「インタビューする人に(史上)7人目だよと聞いて、鳥肌が立ちました。自分は完封だと思って喜んだんですけど」。四回から八回まで毎回、四死球と失策で走者を許しましたが、得点圏に走者を背負ったのは五回の一度きり。打者への集中力が、逆に記録を意識させなかったのでしょうか。ベンチやバックを守る野手の誰かは気づいていたとは思いますが、半端でない緊張感の中にいたのは想像がつきます。

 この快記録で、渡部投手の人生が一変するかもしれません。大会中は、NPBのスカウトも多数集まり、今秋のドラフト会議へ向けたリストの絞り込みを行ってます。渡部投手自身は進路について語りませんでしたが、この日が70歳の誕生日で、渡部投手からウイニングボールをプレゼントされた日下部憲和監督は、左腕の進路に関しては全くの白紙とのこと。これまで全国的に無名だった投手が、数々の歴史を紡いできた球史に名を刻み、一躍全国区に。技巧派左腕の渡部投手の今後の動向は要チェックです。