ファイターズ
2023/12/13 19:25

《岩本勉のガン流F論》特別編 忘れられないあの一球 プロ初完封を逃し、成長できた岩手の夜

 

一球の怖さを痛感 我を通して逃したプロ初完封

 日本ハムのエースとして一時代を築いた「ガンちゃん」こと岩本勉さん。開幕投手を5度務め、1998、99年には2年連続で完封勝利を飾った。人懐っこい性格と天性のトーク技術で、ファンにも愛され、現役引退後は評論家を軸に幅広く活躍を続ける。オフシーズンの今、あらゆる角度から、プロ野球界の今昔を語る。今回のテーマは、忘れられないシーン。我を通したために、あと1球のところでプロ初完封を逃した痛恨の一戦を振り返る。同時にその試合は、名将へのリスペクトの念を深める契機ともなった。

星野伸之と投手戦 1ー0の九回に響いた名将の声

 1996年6月25日。忘れもしない岩手県営球場。相手はオリックス。星野伸之さんとの投げ合いが続き、六回まで互いにスコアボードに「0」を刻んだ。そして七回、ついに味方が押し出し四球で1点をもぎ取った。1―0のまま突入した九回に〝事件〟は起きた。

 2死一塁。打席に4番の四條さんを迎えた。1球目にストライク。2球目はファウル。プロ初完封まで、あと1球と追い込んだ。ここでベンチの上田監督から「おーい! ガン!」と大声が飛んだ。上田監督はジェスチャーで、落ちる球の指示を出していた。

指揮官の指令を無視して選択した直球勝負

 ところが、だ。私は心に決めていた。ストレートで3球勝負と。2球目のファウル直後、捕手の田口さんが「最後、どうする?」。ここで私は「直球でいきます!」と即答した。ということで、上田監督の指令を見事に無視し、投げ込んだ3球目。これが三遊間への内野安打となってしまった。

そしてまさかの… プロ初完封が一転

 試合終了が一転、2死一、三塁とピンチは拡大した。打席には強打者のニール。それでもあと1死だ。だが、私は平常心ではなかった。内野安打を許した怒りで、自然と体に力みが生じ、コントロールを乱した。アウトローを狙った初球の直球は指にかからず、ただただ甘い棒球となった。メジャー経験者で、この年に本塁打王と打点王のタイトルを獲得したニール。絶好球を見逃してくれるはずがない。しっかりとライトスタンドへ運ばれた。逆転サヨナラ3ラン。ただただ、白球の行方を見送るしかなかった。

試合後の移動バスでまた〝事件〟 救われた片岡篤史の〝一発〟

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